これは,愛知と滋賀を訪れたJohn Smith (2022/11参照) のその後の物語である.
Johnは学会発表に真摯に向き合い,多くの事を学んだ.
少し時を遡る.
6月4日,羽田空港,機内.
窓から色んな鳥を眺める.
福岡を目指す飛行機と学会発表に臨むJohn,2つの滑走路が重なる.
飛行機は旋回しながら着陸態勢に入った.
窓から見下ろす福岡の街並みは,どこか横浜に似ている.
車の音,子供達の声,学校のチャイム.
聞こえないはずの音が心に響く.
住んでいる街は違えど,そこにも変わらない日常があった.
空港から久留米に移動し,夜を迎えた.
同胞達と名物もつ鍋を楽しむJohn.
もつ鍋は,実はとても健康的な料理らしい.
〆まで貪るように堪能し,移動の疲れを癒す.
ある時Johnは,焼鳥屋の客だった.
久留米の焼き鳥はダルムが人気らしく,彼はそれに加えてハツを気に入ったようだ.
しょっぱいものを食べたら甘いものが欲しくなる.
デザートで注文したフルーツパフェが彼の甘味欲を満たす.
英気を養い,Johnは学会発表に臨んだ.
初めての英語発表だったが,多くの学生や科学者と議論を交わすことができた.
発表の余韻に浸りつつ,彼は同胞達と共に久留米に別れを告げる.
我々を出迎え,発表まで心の支えになってくれた未確認生物がいる.
それはどこか寂しそうな表情をしていた.
「ようこそ」は別れに見合わない.
しかし,出口は入口でもある.
いつかまた久留米を訪れるその日まで,元気でいてほしい.
だから我々は未確認生物「くるっぱ」に告げる.
「行ってきます.」
Johnよ,同胞達よ,振り向くな.
再会の誓いに涙はいらない.
大紀行はいよいよ佳境を迎える.
電車に揺られ,佐賀県の鳥栖駅で一度下車した.
ここはサッカーチーム「サガン鳥栖」の本拠地らしい.
プラットフォームから鳥栖スタジアムが見える.
線路の雑草と貨物列車が郊外の風情を醸し出す.
心地良いそよ風が,Johnを腰掛けにとどめようとする.
Johnは北海道の観光スポットを調べながら次の電車に乗り込んだ.
電車を降りて少し歩けば,そこは旅の最終目的地,吉野ヶ里遺跡だ.
目の前に広がるのは,2000年前の日本.
人間の生きた証が悠久の時を経て今,そして未来へとつながる.
我々も遠い未来に何かを残すのだろうか?
いつの日か,人類が歴史の一部になったとしても,
その時を生きる存在に何かを語りかけるのだろうか?
遺跡には多くの竪穴式住居があり,John達はその中に潜り込む.
Johnは語る.
「これは弥生時代のLDKだ.」
間違ってはいない.
所狭しと置かれた食器や家具は,当時の生活を巧みに再現していた.
6日間の学会と旅を終え,John達は飛行機に乗り込んだ.
夜が灯る街の向こう,地平線の彼方に夕日が沈む.
Johnは名残惜しそうに眺める.
「……帰ろう.」