第6話 長野と岐阜の歩き方

 

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僕は人の紀行を盗むひったくりだ.

 

初めて彼に会ったのは,熊本行きの機内.

彼は日記を書いていた.

これまで盗んできた人とは
何かが違っていた.

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音信不通一歩手前のJohn Smithから
久しぶりにメールが来た.

 

「長野」

 

一言だけ書かれたメールを閉じ,
旅の身支度を始める.

顔を洗う水は少し冷たい.

鏡の向こうからこちらを眺める
男の名は,Kevin Brown

 

Johnの探し物は何なのか?

中央自動車道と入道雲

そのヒントが長野にあるかもしれない.

 

宿に着いた頃には,
すっかり遅くなった.

日が昇ったら,上高地に向かうとしよう.

 

 

 

 

木漏れ日差す朝,僕は目覚める.

木漏れ日

窓辺の椅子にでも座ろう.

宿から望む山々

真夏が近づく8月の森,
鳥の歌に安らぐ.

 

上高地に着くと,
大自然が目の前に広がる.

河童橋

美しい,
そんな言葉如きで語れるものか.

目に映し出される絵のような光景に
息を忘れる.

大自然のキャンバス

前にJohnは言っていた.

 

「世界は美しい.」

 

言葉足らずな彼だからこそ,
僕はこの言葉に重みを感じる.

 

上高地には散策ルートが設けられている.

僕はそれに沿って歩みを進める.

木陰

涼しい木陰を抜けて行く.

そよ風が頬をくすぐる.

緑に囲まれた池は,まるで天然の宝石だ.

見上げた空は深い青,
白い筋雲がたなびく.

 

上高地の散策を終えて次の場所を目指した.

岐阜県に入る.

平湯大滝

日本の滝百選に選ばれた落差64mの滝だ.

 

僕にとってJohnは師匠だ.

夕食「牛肉のステーキ」

彼の生き方に感銘を受けたからだ.

熊本行きの飛行機で彼に,
なぜ日記を書いているのか尋ねた.

 

「美しい世界をありのまま言葉に残したい.」

 

これまで盗んだものが無価値に思えるほど,
John
の言葉が刺さった.

彼は続けて言った.

 

「僕にとって旅は人生そのものだ.」

 

Johnは空っぽな僕に
生き方を教えてくれた.

この言葉を心の支えにした.

 

 

 

 

翌日,僕は軽井沢に寄ることにした.

長野の車窓から

のどかな田舎を進んでゆく.

途中,上田を経由した.

信州国際音楽村

花が旅路を彩る.

 

広大な長野県を走り抜けた先に
目的地が見えてくる.

白糸の滝

しばしの間,夏の隙間に涼む.

 

Johnの探し物はまだ分からない.

北海道や長野,1人で探す,
手がかりはこんなところか.

昼食「ごちそうセレクション」

ダメ元でメールしてみたら,
意外にも返信が来た.

 

「見つかるまでは言えない.」