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僕は人の紀行を盗むひったくりだ.
初めて彼に会ったのは,熊本行きの機内.
彼は日記を書いていた.
これまで盗んできた人とは
何かが違っていた.
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音信不通一歩手前のJohn
Smithから
久しぶりにメールが来た.
「長野」
一言だけ書かれたメールを閉じ,
旅の身支度を始める.
顔を洗う水は少し冷たい.
鏡の向こうからこちらを眺める
男の名は,Kevin
Brown.
Johnの探し物は何なのか?
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中央自動車道と入道雲 |
そのヒントが長野にあるかもしれない.
宿に着いた頃には,
すっかり遅くなった.
日が昇ったら,上高地に向かうとしよう.
木漏れ日差す朝,僕は目覚める.
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木漏れ日 |
窓辺の椅子にでも座ろう.
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宿から望む山々 |
真夏が近づく8月の森,
鳥の歌に安らぐ.
上高地に着くと,
大自然が目の前に広がる.
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河童橋 |
美しい,
そんな言葉如きで語れるものか.
目に映し出される絵のような光景に
息を忘れる.
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大自然のキャンバス |
前にJohnは言っていた.
「世界は美しい.」
言葉足らずな彼だからこそ,
僕はこの言葉に重みを感じる.
上高地には散策ルートが設けられている.
僕はそれに沿って歩みを進める.
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木陰 |
涼しい木陰を抜けて行く.
そよ風が頬をくすぐる.
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池 |
緑に囲まれた池は,まるで天然の宝石だ.
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空 |
見上げた空は深い青,
白い筋雲がたなびく.
上高地の散策を終えて次の場所を目指した.
岐阜県に入る.
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平湯大滝 |
日本の滝百選に選ばれた落差64mの滝だ.
僕にとってJohnは師匠だ.
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夕食「牛肉のステーキ」 |
彼の生き方に感銘を受けたからだ.
熊本行きの飛行機で彼に,
なぜ日記を書いているのか尋ねた.
「美しい世界をありのまま言葉に残したい.」
これまで盗んだものが無価値に思えるほど,
Johnの言葉が刺さった.
彼は続けて言った.
「僕にとって旅は人生そのものだ.」
Johnは空っぽな僕に
生き方を教えてくれた.
この言葉を心の支えにした.
翌日,僕は軽井沢に寄ることにした.
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長野の車窓から |
のどかな田舎を進んでゆく.
途中,上田を経由した.
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信州国際音楽村 |
花が旅路を彩る.
広大な長野県を走り抜けた先に
目的地が見えてくる.
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白糸の滝 |
しばしの間,夏の隙間に涼む.
Johnの探し物はまだ分からない.
北海道や長野,1人で探す,
手がかりはこんなところか.
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昼食「ごちそうセレクション」 |
ダメ元でメールしてみたら,
意外にも返信が来た.
「見つかるまでは言えない.」