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僕はKevin Brown,ひったくりだ.
物心ついた時から,
僕は教科書が好きだった.
いつも一人だったから,
それを毎日読んだ.
でも,人生の教科書は
どこにもなかった.
そんな僕は,
今日も誰かの真似をする.
人は教科書だ.
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秋田県へ行くことにした.
東京駅から新幹線に乗り,大曲駅を目指す.
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大曲駅 |
新幹線に3時間立ち続け,すでに体力が限界だ.
近くの店に駆け込み,昼食を摂る.
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何かのセット |
燻製にされており,米との相性がとても良い.
大曲駅から車で30分走れば,
横手城が見えてくる.
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横手城 |
400年以上前に出来たらしいが,
詳しい時期は分かっていない.
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何かのソフトクリーム |
城下は閑散としており,
のどかな雰囲気に僕は一息つく.
車に乗り込んで次に目指したのは,
「角館」という,武家屋敷が立ち並ぶ街.
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青柳家のリビング |
囲炉裏を見ていると
何かを食べたくなってくる.
というわけで,
秋田名物「きりたんぽ」を求めて,
夜の秋田市街地に繰り出した.
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きりたんぽ鍋 |
粒の粗い米のような食感を堪能していると,
突然John Smithの目撃情報が入った.
少し長めに秋田県に滞在するとしよう.
ふと,星を見に行こうと思った.
不安や孤独を抱え,
明かりのない道を走り抜ける.
おもむろに空を見上げた.
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夜の淵から覗く空 |
宇宙が広がっていた.
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光の雨 |
夜空に煌めく無数の光が降り注ぐ.
夏の大三角が天高く歌う.
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鳥居と星空 |
夜空のプリズムは徐々に鮮明になる.
浮かび上がる星々を
なんとなく指でなぞってみた.
なぜ秋田県に来たのか?
それは自分でも分からない.
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朝食「ババヘラアイス」 |
「そこに秋田県があるから」などという,
妄言を吐くつもりはない.
何かを感じたのだろう.
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寒風山からの眺め |
ひったくりもそうだ.
何か感じるものがあるから,
興味を持ち,盗みに行く.
さて,僕はいつの間に
なまはげ館に来ていた.
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なまはげ |
なまはげは悪い子供を
更生させる力を持つ神様らしい.
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なまはげの玉 |
「悪いことをするとなまはげが来る」
という迷信がある.
ところでみんなは何歳まで
迷信や神様を信じていたのだろうか?
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昼食「海鮮丼」 |
僕は神様を最初から信じていなかった.
これは確信を持って言える.
神輿はただの箱だし,
お賽銭は住人の生活費だ.
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入道崎 |
宗教も一部の偉い人が儲かるために
人を騙しているだけだと知っていた.
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入道崎から望む海 |
そんな賢しい僕だが,
お化けがいないと知ったのは
中学生になってからだ.
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入道崎「日時計石」 |
一緒に遊んでいた友達から
とんでもない形相で追われた時,
本当にお化けだと思った.
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入道崎「北斗の石」 |
ある夜,マンションの廊下で
奇声を上げて走る人の音を聴いて
本気でお化けだと思った.
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入道崎灯台 |
それはさておき,
また一日が終わろうとしていた.
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ゴジラ岩 |
ここはのどかな所だ.
都会の喧騒を忘れ,
違う世界に迷い込んだと錯覚する.
田沢湖に程近いホテルで
また一晩を過ごした.
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朝食「バニラとラムネのソフトクリーム」 |
朝食を堪能し,田沢湖へ向かう.
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補色 |
田沢湖は日本一深い湖で,
100万年以上前の火山活動に
よって出来たらしい.
突然の再会だった.
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田沢湖の桟橋 |
あれは紛れもなくJohnだ.
「…久しいね,Kevin.」
それだけ言うと,
無言で遊覧船乗り場に向かう.
僕は違和感を抱きつつも,
ただ追いかける.
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田沢湖遊覧船 |
湖面はコバルトブルーに輝く.
白い波を立てながら船は進む.
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波の一瞬 |
Johnがおもむろに口を開く.
「君は紀行を書くのが好きなのか?」
僕はただ,Johnという教科書を
真似するひったくりに過ぎない.
だから,分からないとしか
言えなかった.
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湖と鳥居 |
船から御座石神社を望む.
星が降る夜に訪れた鳥居は
日を浴びて静かに佇む.
船を降り,湖畔をゆく.
ほとりに立つ金色の像には
古くから伝わる伝説がある.
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たつこ像 |
モチーフとなった辰子は
永遠の美貌を手に入れるため,
とある泉の水を飲んだ.
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御座石神社 |
しかし,飲めば飲むほど喉が渇き,
泉が枯れる頃には竜へと変貌し,
田沢湖の底へと沈んでいったという.
日が暮れ始め,
カラスの声が静まり返った湖に響く.
前を歩くJohnが立ち止まる.
「Kevin,君は……すごいと思う.
僕の紀行を書くとき,何を考えているの?」
今までの旅路が脳裏によみがえる.
真似でしかないが,以前Johnが言ったように,
僕もありのままを書いてきたつもりだ.
だから自信を持って言える.
「何も考えていないよ.」
一瞬Johnの顔が曇る.
「そうか…そんな…
……フフ,ハハハハッ…」